親の終活を手伝う立場になって、はじめて実感することがあります。
それは、「片づけが大変だった」という単純な話ではありません。
墓じまいや、長年守られてきた仏壇・位牌の整理は、
何を残し、何を手放すのかを“遺された人が判断し続けなければならない作業”でした。
「これは残すべきものだろうか」
「勝手に処分してしまって、後悔しないだろうか」
「本当は、親はどうしてほしかったのだろうか」
そう考え始めると、手が止まります。
特に困ったのは、判断材料が何も残されていないもの”でした。
お墓をどうしたかったのか。
仏壇を継いでほしかったのか、供養の形は気にしていたのか。
位牌を減らすことに抵抗はあったのか、なかったのか。
どれも、正解はありません。
けれど、親の考えが分からないまま決断を下すことは、想像以上に重たいものです。
この経験を通して、多くの人が同じことに気づきます。
「これは、いずれ自分の番でも起きる」
親の終活を「大変だった」で終わらせてしまうか、
「自分の将来へのヒント」として受け取るかで、その後が変わります。
墓や仏壇、位牌の問題は、決して特別な家庭だけの話ではありません。
むしろ、多くの人が準備をしないまま迎えてしまう現実です。
だからこそ、親の終活を経験した今、次に考えるべきなのは 「自分の終活」 です。そして、その最初の一歩が、身の回りの生前整理なのだと、気づかされます。
生前整理=断捨離ではない
「生前整理」と聞くと、
多くの人がまず思い浮かべるのは 断捨離 かもしれません。
・物を減らす
・家をすっきりさせる
・不要なものを処分する
もちろん、それも大切な要素です。
けれど、親の墓じまいや仏壇整理を経験すると、
生前整理はそれだけでは足りないことに気づきます。
本当に大変だったのは、
物の量ではなく、「意味が分からないもの」を判断することでした。
なぜこの仏具を大切にしていたのか。
この位牌はどこまで残すつもりだったのか。
この写真や遺影は、どんな気持ちで飾られていたのか。
物自体は小さくても、そこに込められた想いや価値観が見えないと、
「捨てていいのか」「残すべきなのか」で迷い続けることになります。
生前整理とは、
物を減らす作業ではなく、判断を引き継がせる準備です。
・何を大切にしてきたのか
・何は手放しても構わないのか
・供養や形式について、どこまでこだわっているのか
これが少しでも伝わっていれば、
遺された人の迷いは大きく減ります。
逆に、どれだけ家が片づいていても、
「気持ちが分からない」状態では、残された家族は立ち止まってしまいます。
だから、生前整理は「捨てる・減らす」ことを目的にするのではなく、
自分の考えを、あとから整理しやすい形で残すこと
そう考えると、無理に急ぐ必要もありません。
少しずつ、「これはどうしておきたいか」を言葉にする。
それだけでも、立派な生前整理です。
次の章では、
身の回りの生前整理を始めるとき、最初に考えておきたい視点
──「墓・仏壇・位牌」の前にやるべきことについて整理していきます。
③ いきなり「墓・仏壇」を考えなくていい
生前整理というと、
どうしても話題の中心になりやすいのが
・お墓はどうするか
・墓じまいをするか
・仏壇を引き継ぐか処分するか
といった、少し重たいテーマです。
ですが、実際に親の整理を経験すると分かるのは、
ここから考え始めると、ほぼ確実に手が止まるということです。
理由は単純で、墓や仏壇は「判断に必要な前提情報」が多すぎるからです。
・誰が管理するのか
・お金はどこから出すのか
・親族の理解は得られるのか
・宗教的に問題はないのか
これらが整理されていない状態でいきなり墓や仏壇に向き合うと、
「決められない」「話し合いが進まない」状態になりがちです。
だからこそ、生前整理のスタート地点はもっと日常に近いところで構いません。
まず考えるべきは「判断が必要になるもの」
生前整理で本当に重要なのは、「残すか捨てるか」ではなく、
あとから誰かが判断しなければならないものは何か
を洗い出すことです。
たとえば、
・銀行口座やネット証券
・サブスクや会費制サービス
・写真データやクラウド上の情報
・保証書、契約書、重要書類
これらは、放置すると
「分からない」「触れない」「止められない」状態になりやすいものです。
一方で、
・衣類
・家具
・日用品
などは、多少残っていても遺された人が判断しやすいものでもあります。
墓・仏壇は「最後に判断するテーマ」
墓や仏壇は、物理的にも心理的にも大きな存在です。
だからこそ、
・自分はどう考えているのか
・どこまで簡略化しても良いと思っているのか
・子どもや兄弟に何を求めていないのか
この 「考え方」だけを先に伝えておく ことが重要です。
具体的な結論を出さなくても構いません。
「無理に守らなくていい」
「管理が大変なら手放してほしい」
そうした一言があるだけで、残された人の心理的負担は大きく変わります。
生前整理は、人生の終わりを準備する作業ではありません。
自分がいなくなった後も、家族が迷い続けないための配慮
その第一歩は、
重たいテーマに手を出すことではなく、
「判断が必要なもの」を静かに見える化することです。
次の章では、
生前整理を始めるときに最低限押さえておきたいチェックポイント
「これだけは先に整理しておくと助かるもの」を具体的に見ていきます。④ 生前整理の最初に手をつけたいチェックリスト
生前整理を始めようと思っても、
「何から手をつければいいのか分からない」という声はとても多いです。
ここでは、
遺された人が本当に困りやすいものを基準に、
優先順位の高いチェックリストをまとめます。
① お金と契約に関わるもの
これは最優先です。
- 銀行口座(金融機関名・支店・口座種別)
- ネット証券・投資信託・暗号資産の有無
- クレジットカード(年会費の有無)
- 生命保険・医療保険・共済
- サブスク(動画配信・クラウド・アプリ課金など)
ポイント
→ IDやパスワードを書き残す必要はありません。
「どこに・何があるか」が分かるだけで十分です。
② デジタル情報・スマホ/PC関連
近年、急増しているのがこの分野です。
- スマホのロック解除方法のヒント
- メールアドレス(主要なものだけでOK)
- 写真データの保存先(端末・クラウド)
- SNSやブログの有無
▶︎▶︎ 消してほしいもの・残してほしいものの意思だけでも伝えておくと助かります。
③ 重要書類・保管場所
物自体より「探す時間」が負担になります。
- マイナンバー関連書類
- 年金・介護・医療関係の書類
- 不動産の権利証・契約書
- 葬儀・墓・永代供養の契約書(あれば)
④ 思い出・気持ちが絡むもの
後回しにされがちですが、実はとても重要です。
- 写真・アルバム・遺影
- 位牌・仏具・形見分けの希望
- 捨ててほしくないもの/迷わず処分していいもの
▶︎▶︎ 一か所にまとめる必要はありません。「どこにあるか」が分かれば十分です 具体的な指示より、「大切にしてきた理由」があると判断しやすくなります。
このチェックリストは、
すべて完璧に埋めるためのものではありません。
一つでも「見える化」できれば、それは立派な生前整理です。
⑤ 終活ノート・エンディングノートとの上手な付き合い方
生前整理の話になると、必ず話題に上がるのが「終活ノート」「エンディングノート」です。
結論から言うと、無理に書かなくても構いません。
大切なのは「形式」ではなく、
残された人が困らないことだからです。
ノートは「完成させるもの」ではない
終活ノートが続かない理由の多くは、
- きれいに書こうとしてしまう
- すべて埋めなければと思ってしまう
- 気持ちが重くなってしまう
といった心理的ハードルです。
でも本来、終活ノートは
途中で止まっていても価値があるもの
です。
書きかけでも、メモ書きでも、
そこに「考えた痕跡」があれば十分です。
ノートに向いていること/向いていないこと
ノートに向いていること
- 考え方や価値観
- 迷ったときの判断基準
- 家族への一言メッセージ
ノートに向いていないこと
- ID・パスワード
- 頻繁に変わる情報
- 金額や細かい契約内容
これらは別紙や一覧メモで管理し、
「どこを見れば分かるか」だけノートに書く方が安全です。
生前整理は「今を整える延長」
生前整理も、終活ノートも、
特別なことではありません。
墓じまいや仏壇整理を経験した人ほど、
こう感じるようになります。
「もっと気軽に考えておけばよかった」
「少し話しておいてくれたら助かったのに」
生前整理とは、
未来の不安を増やす作業ではなく、
今の自分と、これからの暮らしを軽くするための準備 です。
できるところから、できる分だけで構いません。
それだけで、あなたの生前整理は、もう始まっています。

