2026年10月、英国政府が家庭向けに、緊急事態に備えて食料や飲料水などを備蓄するよう呼びかけました。
その背景には、自然災害だけでなく、AI時代に深刻化するサイバー攻撃や、他国・テロリストによる供給網への妨害などが想定されていることが注目されます。
サイバー攻撃というと、企業の機密情報が盗まれたり、個人情報が流出したりする事件を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、攻撃によって社会の重要なシステムが停止すれば、買い物や決済、通信、水道など、私たちの日常生活にも影響が及ぶ可能性もあります。
日本でも、異常気象や大規模な地震などに備えて、食料や飲料水の備蓄が呼びかけられています。これからは、自然災害だけでなく、サイバー攻撃によって生活インフラが使えなくなる事態も視野に入れておく必要があるのかもしれません。
英国政府が家庭に呼びかけた「Be Ready」
英国のウェス・ストリーティング国防相は2026年10月、BBCの番組「クエスチョン・タイム」などで、自然災害やサイバー攻撃、国家が関与するテロなどへの備えを強化する必要性を訴えました。
英国政府は同月22日、緊急事態によって日常生活に必要なサービスが一時的に停止した場合に備える「Be Ready(備えよう)」キャンペーンを発表しました。
政府が家庭に求めているのは、緊急事態が発生しても、まずは3日間を乗り切れるように準備しておくことです。
主な備蓄品として、次のようなものが挙げられています。
- 保存の利く食料
- ボトル入りの飲料水
- 懐中電灯
- 寝袋
- 救急用品
- 停電時にも情報を得られるFMラジオ
また、電気や通信などの障害によって電子決済やATMが使えなくなる事態に備え、現金を用意しておくことも推奨されています。
こうした備えは、必ずしも大規模な災害や戦争が起きた場合だけに必要なものではありません。停電や通信障害、近隣の店舗のシステム障害など、身近なトラブルでも役立つ可能性があります。
英国政府が今回のキャンペーンで目指しているのは、人々を怖がらせることではなく、緊急事態が起きたときに落ち着いて対処できるようにするということです。
サイバー攻撃で、なぜ食料や現金の備蓄が必要になるのか
今回の発表で注目したいのは、サイバー攻撃と家庭での備蓄が結びつけられている点です。
サイバー攻撃という言葉から、企業のサーバがハッキングされ個人情報が流出する、流出した個人情報が2次流通され個人が被害に遭うことをイメージする人もいるでしょう。しかし、企業や社会インフラのシステムが攻撃を受けた場合、その影響は社会全般に及ぶ場合があります。例えば、次のような事態が考えられます。
1.スーパーや店舗で決済ができなくなる
店舗の決済システムがサイバー攻撃を受けたり、関連するシステムに障害が発生したりすると、クレジットカードや電子マネー、QRコード決済などが使えなくなる可能性があります。
店舗や金融機関の対応状況によっては、現金での支払いも含め、買い物が難しくなることがあります。
英国のストリーティング国防相も、地元の店舗がサイバー攻撃を受け、レジでカードが使えなくなる事態を例に挙げて呼びかけています。
2.物流や供給網が混乱する
食料品や日用品は、生産者から物流会社、卸売業者、店舗などを経由して消費者に届きます。
その過程で使われる受発注、在庫管理、配送管理などのシステムが停止すれば、商品を運んだり、必要な商品を店舗に補充したりする作業に支障が出る可能性があります。
攻撃の規模や影響範囲によっては、特定の商品が手に入りにくくなることも考えられます。
3.電気・水道・通信などのサービスに影響する
電力、水道、通信などの重要インフラも、さまざまなシステムによって管理運用されています。
サイバー攻撃がこうしたインフラのシステムに影響を及ぼせば、サービスの提供が一時的に制限される可能性が想定されます。
重要インフラには防御策や復旧体制もあります。過度に恐れず、複数のサービスに障害が広がる事態を想定しておけば、日常生活への影響を小さくできる可能性があります。
AIの進化で、サイバー攻撃への警戒が必要に?
ストリーティング国防相は、AIがもたらす可能性を評価する一方で、AI時代にはサイバー攻撃の脅威も存在すると指摘しました。
サイバー攻撃は、外国の国家機関などによるものだけではありません。金銭を目的とする犯罪組織なども関与します。AIの発展は、攻撃に使われる手法や防御側の対応を変化させる要因の一つです。例えば、偽のメールやメッセージを作成する、システムの弱点を探すといった行為にAIが利用される可能性があります。
AIの発展は、攻撃に使われる手法や防御側の対応策、脆弱性の発見と対応スピードを変化させる要因の一つとなりえます。
技術の進歩によって脅威の形も変化するなか、企業や政府だけでなく、私たち個人もその影響を知っておくことが重要です。
日本でも、サイバー攻撃への備えを考える必要がある
日本でも、政府はサイバー攻撃を重要な安全保障上の課題と位置づけています。
2026年7月31日、首相官邸で開かれたサイバーセキュリティ戦略本部の会議では、AIの高度化を踏まえ、巧妙化・高度化するサイバー攻撃への対応を強化する方針が示されました。政府は、重要インフラ事業者の脆弱性への対応や、官民連携、社会全体のレジリエンス(危機への対応力・回復力)の強化などを進めています。
出典: 首相官邸「サイバーセキュリティ戦略本部」(2026年7月31日)
一方、家庭向けの備えについては、自然災害への対策として、すでにさまざまな呼びかけが行われています。
例えば、政府広報オンラインでは、食料や飲料水の備蓄に加え、常用薬やお薬手帳、非常用の照明などを準備するよう案内しています。現金についても、停電時にキャッシュレス決済やATMが利用できなくなる可能性を考慮し、少額の現金を用意しておくことが役立ちます。
出典: 政府広報オンライン「防災特集 ACTION01 災害に事前に備える」
日本では、異常気象や大規模地震への備えが重要な課題となっています。スーパーエルニーニョ現象の発生に伴う気象への影響や、南海トラフ地震をはじめとする大規模災害への備えを考えるうえでも、家庭での備蓄は欠かせません。これからは、ここに、サイバー攻撃による決済や通信、物流などの障害という視点を加えてみる必要があるのかもしれません。
自然災害とサイバー攻撃では、発生の仕組みや被害の現れ方は異なります。しかし、生活に必要なサービスが利用できなくなったときに備えるという点では、共通する部分があります。
私たちが今からできること
国の対策や企業のシステム防御は重要ですが、私たち自身も、日常生活を支えるサービスが一時的に使えなくなった場合を考えておくことで、備えることができます。
例えば、次のような備えです。
- 食料・飲料水: 最低3日分、できれば1週間分を目安に備蓄する。
- 現金: 銀行のATMやキャッシュレス決済が使えない場合に備え、少額の現金を用意する。
- 薬: 常用薬を切らさないようにし、お薬手帳なども準備しておく。
- 情報収集手段: モバイルバッテリーや乾電池式ラジオなどを用意する。
- 生活必需品: 携帯トイレ、衛生用品など、断水や物流の混乱に備えた物資を準備する。
これらは、サイバー攻撃だけを想定した特別な備えではありません。地震や台風、停電などにも役立つものです。普段使っている食品や日用品を少し多めに購入し、使った分を補充する「ローリングストック」を取り入れれば、無理なく備蓄を続けられます。決して買い占めなど大量の買い込みはせず、自分の生活に必要なものを確認し、無理のない範囲で準備することを心がけましょう。
私たちひとりひとりが、自然災害への備えを基本としながら、サイバー攻撃によっていつものサービスが使えなくなる可能性を知り、日常生活の中でできる準備を進めておきたいものです。
