「入院の際、身元保証をしてくれる人がいない」
「介護施設に入ることになったら、誰に身元保証やお金の管理を頼めばいいのだろう」
「亡くなった後の葬儀や家財の処分を頼める人がいない」
一人暮らしをしている人にとって、こうした不安は決して特別なものではありません。
特に頼れる親族がいない「おひとり様」にとっては深刻な問題です。
こういったニーズに応じて、近年、身元保証や入退院の支援、日常生活の見守り、死後の事務手続きなどをまとめて引き受ける「高齢者等終身サポート」が広がっています。
一方で、このサービスには別の問題もあります。
契約時に高額な入会金や預託金を求められるケースがあり、費用や契約内容をめぐる消費者トラブルが増えているのです。
そんななか、損害保険の仕組みを使って、利用者から預託金を受け取らずに終活を支える取り組みが始まりました。大手損害保険会社の東京海上日動火災保険と、愛知県のNPO法人「知多地域権利擁護支援センター」による取り組みです。「おひとり様の終活」を考えるうえで、注目しておきたい新しいサービスモデルといえそうです。(2026年9月19日 朝日新聞掲載記事「預託金なし「おひとりさま」終活支援に保険 東京海上日動が全国展開」)
65歳以上の一人暮らしは2025年に933万世帯
背景にあるのは、一人暮らしの高齢者の増加です。2025年の国民生活基礎調査では、65歳以上の単独世帯は933万世帯に達しています。高齢者の一人暮らしは、もはや一部の人だけの問題ではなくなってきています。
もちろん、一人暮らしだからといって、必ずしも「身寄りがない」というわけではありません。
子どもや兄弟姉妹がいて、必要なときには助けてもらえる人もいるでしょう。
しかし、子どもが遠方に住んでいる、家族との関係が疎遠になっている、あるいは親族自身が高齢になっているなど、「家族はいるけれど、実際には頼ることが難しい」人も増えています。
政府もこうした問題を「身寄りのない高齢者等への支援」という重要な課題として位置づけています。2026年版の高齢社会白書でも、日常生活支援だけでなく、入院などの手続きや死後事務を含めた支援の必要性が示されています。
「終身サポート」というサービスが広がっている
こうしたニーズに対応しているのが「高齢者等終身サポート」と呼ばれるサービスです。
一般的には、以下のような支援を組み合わせて提供されます。
- 入院・退院時の身元保証や手続き支援
- 施設入居時の支援
- 日常生活の見守り
- 通院や各種手続きの支援
- 金銭管理などの支援
- 葬儀や火葬などの死後事務
- 遺品整理や住居の整理
国が2024年に策定した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」では、サービスは大きく
・「身元保証等サービス」
・「死後事務サービス」
・「日常生活支援サービス」
の3つに整理されています。
おひとり様にとっては、非常に心強いサービスですが、問題もあるようです。
「頼れる人がいない」からこそ、高額な預託金が問題になる
終身サポートサービスでは、死後に必要となる葬儀や火葬、遺品整理などの費用をあらかじめ「預託金」として預けておく仕組みが採用されることがあります。
もちろん、将来必要になる費用をあらかじめ確保しておくという考え方自体には合理性があります。
しかし、数十万円、場合によっては100万円を超えるようなまとまった金額を用意することが難しい人もいます。
そして、預けたお金がどのように管理されるのか、事業者が経営破綻した場合はどうなるのか、途中で解約した場合にいくら返金されるのか――。
利用者側が確認しなければならないことが少なくありません。
実際、国民生活センターなどに寄せられる相談も増えています。
2026年6月の国会答弁によると、全国の消費生活センター等に寄せられた「高齢者等終身サポート事業」に関する相談は、2024年度が421件、2025年度が404件だったそうです。
相談内容には、事業者の信用性、契約金額の妥当性、解約時の返金などに関するものが挙げられます。
2016年度と比較すると、相談件数はおよそ3倍の水準に急増しています。
2026年度についても、すでに年間400件前後のペースとなる可能性があり、終身サポートサービスが普及する一方で、「安心を買うための契約そのものに不安がある」という矛盾が生じています。
東京都でも2026年1月、高齢者等終身サポート契約をめぐるトラブルについて、消費者被害救済委員会に紛争解決が付託されています。
そこで登場した「保険を使った終活支援」
こうした課題に対する解決策の一つとして注目したいのが、東京海上日動火災保険と、愛知県のNPO法人「知多地域権利擁護支援センター」の取り組みです。
同センターは、親族がいない、あるいは親族から協力を得ることが難しい人を対象に、「くらしあんしんサポート事業」を行っています。この事業では、①見守り・安否確認 ②入退院時などの支援 ③死後事務支援 を提供しています。「元気なうちは見守ってもらい、病院や施設に入るときには支援してもらい、亡くなった後のことも任せられる」というサービスです。
20万円の預託金を”無し”にした
この取り組みで特に注目したいのが、預託金を無しにしたことです。
知多地域権利擁護支援センターでは、これまで死後事務費用として20万円の預託金を利用者から預かっていました。しかし、まとまった金額をあらかじめ用意することは利用者の負担にもなることから、この預託金を廃止。東京海上日動火災保険との契約によって、利用者が支払う月額利用料に一定額を上乗せし、その利用料を原資として保険料を支払う仕組みに変更しました。(福祉新聞Web「広域NPOで仲間づくり 互助会は孤立解消〈知多地域権利擁護支援センター、愛知〉」2026年1月2日掲載記事より)
これによって、利用者は最初にまとまった預託金を用意する必要がなくなりました。
「保険を使って終活を支える」という新しい発想です。
月々の負担で「もしものとき」に備える
従来型の終身サポートでは、最初にまとまったお金を預けるという考え方が主流でした。
それに対して、今回の取り組みでは、毎月少しずつ費用を負担することで、将来発生する可能性のある大きな費用に備えるという考え方になります。
同センターでは、預託金の廃止に伴って月額利用料に一定額(1,000円〜10,000円程度)を上乗せする方式に変更したそうです。(福祉新聞Web「広域NPOで仲間づくり 互助会は孤立解消〈知多地域権利擁護支援センター、愛知〉」2026年1月2日掲載記事より)
もちろん、誰にとっても安いサービスというわけではありません。しかし、100万円を超えることもある身元保証サービスなどと比較すると、まとまった預託金を準備することが難しい人にとって、選択肢になり得ます。
「終身サポート」は契約前に必ず確認したい
おひとり様の終活という観点で参考になるモデルですが、終身サポートを利用する場合には、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
1.何をしてくれるのか
同じ「終身サポート」という名称でも、サービス内容は様々です。
見守りなのか、入院時の支援なのか、施設入居なのか、死後事務なのか。
自分が必要としているサービスが契約に含まれているのかを確認する必要があります。
2.いくら払うことになるのか
月額料金だけではなく、
- 入会金
- 預託金
- 入院時の費用
- 施設入居時の費用
- 死後事務の費用
- 葬儀・火葬費用
- 遺品整理費用
など、別途必要になる費用まで確認しましょう。
3.預けたお金はどう管理されるのか
預託金がある場合には、事業者自身の運転資金と分けて管理されているのか、事業者が倒産した場合にどうなるのかをあらかじめ確認しましょう。
国のガイドラインでは、預託金については事業者自身の運営資金と明確に区分して管理することや、管理状況を定期的に報告することなどが望ましいとされています。
4.途中解約したらどうなるのか
終身サポートだからといって、必ず最後まで利用するとは限りません。
施設に入った、家族が支援してくれるようになった、別のサービスに変更したい。そうした場合に解約できるのか、返金されるのか、解約料はいくらなのかも確認しておきたいポイントです。
終身サポートをめぐる消費生活相談では、解約時の返金についての相談が寄せられています。

