今回のご相談
59歳の独身男性です。来年、60歳で退職する予定です。退職後の住まいとして、元気な高齢者向けのマンションへの転居を考え、いくつかの施設を見学しています。
先日、ある施設で体験入居の募集をしていたので、週末を利用して泊まってみました。
そこは介護施設とは異なり、健康な50歳以上の男女が入居するマンションです。毎食自分で料理をしなくても、併設のレストランを利用できます。入居者同士のサークル活動も盛んで、大学時代の寮生活を思い出すような楽しい時間を過ごせました。
ただ、一つ気になることがありました。
ある女性の入居者から、「あなたは年金をいくらもらえる予定なの?」「今はどんな仕事をしているの? 役職は?」といった質問を何度もしつこくされたのです。私の経済状況や社会的な立場を確認しているというか、値踏みされているような印象を受けました。
最初は、悪気があるわけではなく、単なる興味から聞いているのだろうと気にしないようにしていました。しかし、その女性だけではありませんでした。
年配の男性入居者からも、「〇〇さんにはもう挨拶したの? まだなら引き合わせようか?」と言われました。
そのとき、ここには挨拶をしておかなければならないボスのような人がいるのだろうか、と疑問に感じました。せっかく退職後の生活を楽しもうと思っているのに、昔の会社のような上下関係や人間関係があるのではないかと、違和感を覚えたのです。
運営会社にも率直に尋ねてみましたが、「皆さん、仲良く過ごされていますよ」という、決まり文句のような回答しか得られませんでした。
施設の環境やサークル活動には魅力を感じたものの、こうした人間関係があるのなら、入居をためらってしまいます。自分より年上の人たちの、昔の文化や価値観に基づいた発言や行動を、どうしても受け入れられない自分がいます。
これから年齢を重ねていくなかで、私はどのように社会との接点を持ちながら生きていけばよいのでしょうか。
【回答】
まず結論ですが、年上の人たちの価値観を無理に受け入れる必要はありません。自分に合わない人間関係とは適度な距離を保ち、自分が心地よく過ごせる住まいや交流の場を選んでいけばよいのです。
退職後の生活を充実させようと、住まいを探し、実際に体験入居までされたことは、これからの人生を前向きに考えているからこそでしょう。今回の体験で、施設の環境やサークル活動には魅力を感じた一方、人間関係に不安を覚えたのですね。
まず、年金額や仕事上の役職を尋ねられて不快に感じたことも、特定の入居者への挨拶を勧められて違和感を覚えたことも、無理に打ち消す必要はありません。
相手が年上だからといって、その人の考え方や振る舞いをすべて受け入れなければならないわけではないからです。
相手の価値観を認めることと、同調することは違う
今回、あなたが違和感を覚えたのは、単に年上の人たちと話が合わなかったからではないように思います。
年金額や仕事上の役職を尋ねられたことで、経済力や社会的な立場であなた自身の価値を判断されているように感じた。そして、特定の入居者への挨拶を勧められたことで、そこに独特の序列や人間関係があるのではないかと考えたのでしょう。
もちろん、相手に値踏みする意図があったのか、単に親しくなるきっかけとして質問したのかは、今回のやり取りだけではわかりません。「挨拶したほうがいい」と言った男性も、施設で長く暮らす人を紹介しようとしただけかもしれません。
ただ、相手に悪気がなかったとしても、あなたが不快に感じたことまで否定する必要はありません。
人は年齢を重ねる中で、誰もが新しい価値観を身につけるわけではありません。長年会社で働いてきた人のなかには、役職や年収、勤め先などで相手を判断する習慣が残っている人もいます。また、同じ場所で長く暮らしている人たちの間では、本人たちが意識しないうちに独自のルールや人間関係ができていることもあります。
こうした傾向は高齢者に限った話ではありません。若い人たちの集団にも、独特の序列や暗黙のルールはあります。
大切なのは、相手の価値観を自分の価値観に合わせて変えようとしないことです。そして、自分も相手に合わせる必要はありません。
相手には相手の考え方があると認めながら、自分はそれに同調しない。互いの違いを認めつつ、必要な距離を保つことも、大人の人間関係の築き方です。
苦手な相手とは、礼儀を保ちながら距離を置く
これから先、さまざまな人と接する機会があるでしょう。そのなかには、考え方が合わない人や、付き合うと気疲れしてしまう人もいるはずです。
そうした相手とは、必ずしも仲良くなる必要はありません。
例えば、年金額や仕事について尋ねられたときには、「年金のことは、まだ具体的には考えていないんですよ」「仕事の話は、あまりしないことにしているんです」などと、軽く受け流してしまいましょう。
誰かへの挨拶を勧められた場合も、紹介してもらうことに抵抗がなければ応じればよいですし、そうでなければ「ありがとうございます。お会いする機会があったら、こちらからご挨拶します」と答えれば十分です。
相手を否定したり、価値観の違いを指摘したりする必要はありません。礼儀は守りながら、自分が踏み込まれたくない領域には線を引く。それでよいのです。
ただし、こうした対応をしても干渉が続いたり、特定の人への服従を求められたりするのであれば、単なる価値観の違いでは済まない問題かもしれません。その場合は、運営会社に具体的な対応を求めたり、入居先そのものを見直したりすることも必要でしょう。
住まいは、建物や設備だけでなく人間関係も含めて選ぶ
今回の施設には、レストランやサークル活動など、魅力を感じた点もあったのですよね。
今回の体験だけで入居を諦める必要はありませんが、逆に、設備や活動の充実度だけで入居を決めるのも避けたほうがよさそうです。
退職後の住まいは、これから長く生活する場所です。建物や食事の充実度と同じくらい、そこで暮らす人たちとの距離感や、運営側の対応も重要になります。
入居後に、やはり合わなくて転居するとなると、精神的にも、体力的にも、金銭的にも負担は大きいでしょう。
ですから、可能であれば、もう一度見学や体験入居をして、今回とは異なる曜日や時間帯の雰囲気を確かめてみてはいかがでしょうか。特定の人だけでなく、さまざまな入居者と話してみると、また違った印象を持つかもしれません。
運営会社には、より具体的な質問をしてみることをお勧めします。
例えば、入居者同士の付き合いはどの程度あるのか、サークルへの参加は自由なのか、参加しない人も問題なく暮らせるのか、入居者間のトラブルが起きた場合はどのように対応するのか、といったことです。
「皆さん仲良くしています」という説明だけでは、あなたが気にしている点への答えにはなっていません。入居者同士の交流が活発であることと、付き合いを強制されないことは、別の問題だからです。
もし人間関係への不安が残るなら、ほかの施設も比較してみましょう。入居者同士の交流を積極的に楽しむ場所もあれば、プライバシーを重視し、必要なときだけ交流できる住まいもあります。
自分に合う環境を探すことは、わがままではありません。
社会との接点は、一つの場所に求めなくてもよい
最後に、これからの社会との接点について考えてみたいと思います。
会社を退職すると、職場という大きな人間関係の場を離れることになります。そのため、新しい住まいや地域のコミュニティに、これまで職場が担っていた交流の役割を求める人もいるでしょう。
しかし、社会との接点を一つの場所だけに求めるのはあまりお勧めできません。
例えば、住まいは静かに過ごせる場所を選び、趣味のサークルや地域の活動で気の合う人を探す方法もあります。ボランティアや短時間の仕事を通じて、年齢や経歴の異なる人たちと知り合うこともできます。
人間関係は、広ければよいというものでもありません。たくさんの人に囲まれていても気疲れすることはありますし、付き合う人が少なくても、安心して話せる相手がいれば充実した生活を送れます。
あなたが求めているのは、単に人と交流できる住まいではなく、昔の会社のような上下関係や、立場を気にすることなく過ごせる環境なのではないでしょうか。
その希望を大切にして、住まいも、人との付き合い方も選んでいけばよいと思います。
そして、年上の人たちの言動に違和感を覚える自分自身についても、あまり厳しく評価しないでください。
相手の価値観を受け入れられないことと、相手を尊重しないことは違います。相手の考え方を認めながらも、自分はそれに同調しないという選択だってできます。
これから先、あなた自身も年齢を重ねていきます。そのときに、若い世代から自分の価値観を疑問視されることもあるかもしれません。それでも、年齢を理由に相手に合わせるのではなく、互いの違いを認め、必要な距離を保てる関係を築ければよいのではないでしょうか。
退職後の生活は、誰かに合わせるための時間ではありません。自分が心地よいと思える暮らし方を、自分で選び直せる時間でもあります。
今回の体験を通じて、ご自身がどのような人間関係を望んでいるのかが見えてきたのだと思います。その気づきを、これからの住まいや生き方を選ぶ手がかりにしていただければと思います。

