今回のお悩み
55歳・男性・元流通関連営業職
私は55歳の男性です。
勤めていた会社の事業縮小により、昨年仕事を失いました。これまで4、5年ごとに転職を繰り返してきましたが、年齢的なこともあり再就職は簡単ではなく、この1年間ずっと仕事を探していますが、いまだに決まりません。
失業中の生活が長引く中、妻から離婚したいと言われました。妻は10年以上前から離婚を考えてきたそうです。
妻がそんなに長い間自分のことを嫌っていたということを知って、目の前が真っ暗になりました。
大学生の息子と娘がいますが、妻は子どもたちと一緒に家を出ることになり、私だけが残されました。
仕事をしていれば気も紛れ前向きになれると思いますが、転職先が見つからないため、自分なりに何とかしようと会社を立ち上げました。しかし、一緒に仕事をしてくれる友人や知人もおらず、思うように前に進みません。
気が付けば、仕事も家庭も失い、身近な人との信頼関係どころか人とのつながりさえもほとんど築き上げてこれなかったことがわかりました。今では自分の居場所も縁もないと感じます。
「全てを失った。自分には何も残っていない。新しい未来に向かって一緒に歩んでくれる友人もいない。」
そんな気持ちがふと湧いて、モヤモヤして眠れない夜が続いています。
気持ちを紛らわせたくても会話をする相手もおらず、本当に孤独です。
これから私はどのように生きていけばいいのでしょうか。
回答
ご相談ありがとうございます。
まずお伝えしたいのは、あなたが今感じている苦しさは、とても自然なものだということです。
仕事、家庭、人間関係。
人生を支えていた柱が短期間のうちに何本も失われれば、誰でも立ち上がれなくなります。
むしろ今の状況で平然としていられる人の方が少ないでしょう。
「自分には何も残っていない」
という言葉からは、失業や離婚の事実以上に、自分自身の存在価値まで失ってしまったような深い絶望感が伝わってきます。
ですが、今のあなたに必要なのは「頑張ること」ではありません。
まずは、自分に起きていることを正しく理解することです。
あなたは今、「人生の同時多発的な喪失」を経験している
人生には、強いストレスをもたらす出来事があります。
失業。
離婚。
経済的不安。
社会的立場の喪失。
孤独。
あなたの場合、それらがほぼ同時に起きています。
心理学では、人は大切なものを失った時、悲しみや喪失感を経験すると考えられています。
家族を亡くした時だけではありません。
仕事を失うことも、自宅を失うことも、夫や父親としての役割を失うことも、一つひとつが喪失体験です。
今のあなたは、複数の喪失を一度に経験している状態です。
ですから、
「やる気が出ない」「眠れない」「何も考えたくない」「未来が見えない」
と感じるのは当然なのです。
まずは、
「自分は弱い人間だからこうなった」
ではなく、
「これだけの出来事が重なれば苦しくて当たり前だ」
と認識してみてください。
本当に失ったのは仕事でしょうか
ご相談を読んでいて気になった言葉があります。
「今の自分には何もないということに気付かされた」
という部分です。
おそらくあなたが一番つらいのは、失業そのものではないのかもしれません。
仕事がなくなったことで、
「自分は価値のある人間なのか」
という問いに直面してしまったのではないでしょうか。
日本の男性は、仕事を通じて自己評価を作りやすい傾向があります。
会社で役職がある。部下がいる。毎月給料が入る。取引先から必要とされる。
こうしたものが、自分の存在価値を支えていることがあります。
ところが失業すると、それらが一気になくなります。
すると、
「自分には何もない」
という感覚が生まれるのです。
しかし本当にそうでしょうか。
あなたは55年間生きてきました。
何度も転職しながら働いてきました。
家庭を築き、子どもを大学まで育ててきました。
事業を立ち上げる行動力もあります。
これらは消えていません。
会社員という肩書きがなくなっただけで、あなた自身の経験や能力まで消えたわけではないのです。
「友人がいない」ことに気付いた意味
もう一つ印象的だったのは、
「一緒に仕事をしてくれる友人知人がいない」
という言葉です。
これはとてもつらい気付きだったと思います。
しかし見方を変えれば、人生の後半戦に向けた大切な発見でもあります。
40代までは仕事が人間関係を運んできてくれます。
会社に行けば誰かがいる。
会議がある。
飲み会がある。
取引先がある。
しかし50代以降になると状況は変わります。
定年、転職、退職、介護、病気・・・・・
こうした出来事によって、仕事を中心に築かれた人間関係は急速に縮小していきます。
実際、退職後に孤独を感じる男性は少なくありません。
会社以外の居場所を作ってこなかった人ほど、その傾向は強くなります。
ただ、これは決して手遅れではありません。
むしろ55歳でそのことに気付けたのは幸運かもしれません。
60代、70代になって初めて孤立する人もいるからです。
今は「成功」よりも「つながり」を優先してください
起業されたとのことですが、今の状態で事業を軌道に乗せようとすると、さらに苦しくなる可能性があります。
もちろん事業そのものを否定するわけではありません。
ただし現在のあなたに不足しているのは、アイデアや能力ではなく、人とのつながりです。
人は孤独になると視野が狭くなります。
悲観的になり、行動力も落ちます。
ですから最優先課題は、
「売上を作ること」
よりも、
「人と関わること」
にしてはいかがでしょうか。
例えば、
- 地域活動に参加する
- 同世代の交流会に参加する
- 趣味のサークルに入る
- ボランティア活動を始める
- コワーキングスペースを利用する
- 起業家コミュニティに顔を出す
などです。
一見すると仕事に関係ないように思えるかもしれません。
しかし人生後半では、人とのつながりが仕事や生きがいを運んでくることも少なくありません。
「再就職」だけが正解ではない
55歳という年齢になると、確かに再就職のハードルは上がります。
ですが、
「正社員として再就職できなければ人生終了」
ではありません。
今の時代は働き方が多様化しています。
- 業務委託
- パートタイム
- 契約社員
- フリーランス
- 副業
- 小規模事業
など様々な選択肢があります。
50代以降のキャリアでは、
「以前と同じ条件もしくはそれ以上の条件を得る」よりも、「生活を維持しながら社会との接点を持つ」
ことの方が重要になる場合があります。
働く目的を、「成功」から「社会との接点」へ少しだけ変えてみると、見える景色が変わることがあります。
子どもとの関係は終わっていない
奥様が家を出られたことで、
「家族を失った」
と感じているかもしれません。
しかし子どもとの親子関係まで終わったわけではありません。
大学生という年齢は、親との距離を取る時期でもあります。
今は連絡が少なくても不自然ではありません。
焦って関係を修復しようとする必要もありません。
ただ、
「困ったことがあったら連絡してほしい」「応援している」
という姿勢だけは伝え続けてください。
親としての役割は、離婚しても終わりません。
そして子どもたちは思っている以上に親のことを見ています。
人生は「失った後」から始まることがある
人生相談を受けていると、50代後半から人生が大きく変わった人に数多く出会います。
倒産した人、離婚した人、病気になった人、介護経験した人・・・・。
そうした人たちが口を揃えて言うことがあります。
それは、
「当時は人生が終わったと思った」
という言葉です。
しかし数年後には、
新しい仕事を見つけたり、新しい仲間と出会ったり、地域活動に生きがいを見つけたりしています。
もちろん今のあなたにそんな未来は想像できないでしょう。
それで構いません。
未来を信じる必要もありません。
まずは今日を生き延びることです。
夜眠れないなら、眠れないまま朝を迎えても構いません。
不安が消えなくても構いません。
ただ、一人で抱え込まないことです。
誰かと話してください。人と会ってください。
それが次の一歩になります。
心の相談室編集人からのメッセージ
あなたは今、仕事を失い、家庭を失い、自信を失い、将来への希望も見失っているように感じているかもしれません。
しかし本当に失ったのは「人生」ではありません。
人生の一章が終わっただけです。
55歳は、何かを失う年齢ではありますが、同時に新しい生き方を選び直せる年齢でもあります。
これから必要なのは、
過去の自分を取り戻そうとすることではなく、これからの自分を作り直すことです。
その第一歩は意外なほど小さなものかもしれません。
誰かに連絡をしてみる、外に出てみる、話をしてみる、助けを求めてみる、小さなことで構いません。
人生を立て直す力は、特別な才能ではなく、人とのつながりの中から生まれることが少なくありません。
あなたにはまだ、その可能性が残されています。
そして「何も残っていない」と思える今だからこそ、新しく作れるものもあるのです。
