今回のお悩み
昨年、会社を退職しました。60歳、独身です。
私が勤務していた会社では、50歳以上の社員が私一人でした。若い社員が多く、設立から15年ほどの比較的新しい会社だったこともあり、次第に職場に居づらさを感じるようになり、退職を決意しました。
まだ若い会社のため、退職金制度もありません。
決して十分な蓄えがあるわけではありませんでしたが、「これまで貯めたわずかな貯蓄を少しずつ取り崩しながら、個人でできる仕事をして日銭を稼いで生活していこう」と覚悟を決め、退職しました。
ところが、退職してみると、思っていた以上に個人で仕事を取って収入を得ることの難しさを感じました。
私は長年、総務の仕事をしてきました。しかし、人との交渉や営業活動が得意ではありません。
会社に所属しているときには、それなりに自分の仕事をしてきたつもりです。ところが、個人になると、自分で仕事を探し、相手と交渉し、契約をして、仕事を完成させなければ収入になりません。
1年ほどやってみましたが、「自分にはフリーランスとして稼ぐのは難しいのではないか」と感じるようになりました。かといって、今から会社員として採用してもらうのも簡単ではないと思っています。
そこで現在は、コンビニでアルバイトをしています。
ただ、時給で働いていると、自分の時間と身体が少どんどん削られていくような感覚があります。
覚えることも多く、気力の消耗も激しい上に、これまで経験してこなかった接客業なので、精神的にも疲れます。
正直なところ、この仕事を長く続けられる自信がありません。
会社員時代、退職後にフリーランスとして苦労した時期、そして現在のアルバイト生活。
このすべてを経験を振り返ると、「今の自分は世の中の役に立っていないのではないか」と思うことがあります。
まるで社会から脱落し、不要な存在になってしまったような気持ちになるのです。
私はまだ60歳です。
年金を受け取れるようになるまで、まだ数年あります。
人生100年時代の今、60歳は隠居するには早すぎる年齢だと思います。
これから、私はどのように生きていけばいいのでしょうか。
60歳を過ぎたら、生きがいを持ったり、社会に恩返しをしたりすることなど、もう考えなくてもいいのでしょうか。
そう考えると、かえって「自分はもう必要とされていないのではないか」という気持ちが強くなります。
仕事がうまくいかないことへの焦りと、これからの生活費への不安から、眠れない日も続いています。
これからの自分の生き方を、どう考えていけばいいのでしょうか。
回答 「稼げないこと」と「役に立たないこと」は、同じではありません
ご相談ありがとうございます。
60歳で会社を辞め、その後フリーランスに挑戦し、思うように仕事を得られず、現在はコンビニでアルバイトをしている。その過程で、「自分は社会から必要とされなくなったのではないか」と感じるようになったのですね。
「今、仕事で思うように稼げていないこと」と「あなたが社会にとって不要な人間であること」は、まったく別の話です。
ぜひ、ここは切り離してお考えいただきたいことをお伝えします。
会社を辞めたことで「自分の価値」まで失ったように感じていませんか
長く会社員をしていると、「仕事をしている自分」が自分自身の価値と重なってしまうことがあります。
毎朝会社に行くと自分の席がある。
自分の席につけば、仕事を任されたり、同僚から声をかけられる。
そして、毎月、給料が振り込まれる。
こうした日常のサイクルが何十年も続いていると、それが「自分と社会が調和できている状態」と感じ、
それがなくなったときに、「自分は何者なのだろう」という感覚に陥るというのはよく耳にします。
今回の相談者様の場合、会社を辞めた後にフリーランスとして成功できなかったこと、そして現在のアルバイトにも苦労していることが重なっています。
そのため、
「会社でも居場所がなかった」
↓
「個人でも仕事が取れない」
↓
「アルバイトでも苦労している」
↓
「自分には能力がない」
↓
「社会に必要とされていない」
というように、一つひとつの出来事が、すべて「自分の価値」の問題に結びついてしまっているのではないでしょうか。
しかし、これは分けて考える必要があります。
フリーランスで稼げなかったのは、営業や交渉が苦手だったからかもしれません。
コンビニの仕事がつらいのは、接客業が自分に合っていないからかもしれません。
これらは、「あなた自身に価値がない」という証明ではありません。
単に「仕事の種類」と「自分の適性」がマッチしていない可能性があるだけのことです。
60歳からは「何ができるか」より「何なら続けられるか」
考え方を変えてみていただきたいのは、これからの仕事を探すとき、
「自分には何ができるのだろう」 だけでなく、
「自分は、どんな働き方なら無理なく続けられるのだろう」という視点を持ってみることです。
相談者様は長年、総務の仕事をされてきたとのことでした。
総務という仕事は、営業のように自分から商品を売り込む仕事ではありません。
社内のさまざまな人と調整したり、書類や手続きを管理したり、誰かが困ったときに対応したり、目立たないけれど組織を動かすために必要な仕事です。
こうした経験は、会社を辞めた瞬間に消えてしまうものではありません。
ただ、フリーランスになると「自分で仕事を取る能力」が必要になります。
これは、総務の経験で得た能力とは別の能力です。
つまり、「総務として長年働いてきた人が、営業のできるフリーランスになれなかった」だけであって、
「仕事をする能力がなくなった」わけではないのです。
ここは、ぜひ区別してください。
「時給で働く=負け」ではありません
コンビニのアルバイトについても、少し見方を変えてみてほしいと思います。
現在は「時給で働いていると、自分の時間と身が削られていく」と感じているとのこと。
確かに、慣れない接客業を続けることが大きな負担になっているのであれば、無理をして何年も続ける必要はありません。
ただし、アルバイトをしていること自体は、決して敗北ではありません。
むしろ、収入が必要な時期に、年齢を理由に働くことを諦めず、自分で働いて収入を得ている。
それだけでも十分に立派なことです。
相談者様の課題は、「アルバイトをしている」ことではなく「今のアルバイトが自分に合っていない可能性がある」ということです。
もし接客が大きな負担なら、別の仕事を探してみてもいいでしょう。
例えば、総務の経験を活かせる事務補助、書類整理、データ入力、施設の管理業務、バックオフィス業務など、「人と話すこと」よりも「これまでの経験や正確さ」を活かせる仕事も考えられます。
60歳だから、コンビニしかない。とか、
60歳だから、会社員には戻れない。とか、
60歳だから、フリーランスでなければならない。
そんなふうに選択肢を一つに絞る必要はありません。
「社会への恩返し」は、仕事でなくてもできる
ご相談内容には、
「60歳を過ぎたら、生きがいを持ったり、社会に恩返しをしたりすることなど、もう考えなくてもいいのでしょうか」
と書かれていますが、私たちは、むしろ逆だと思います。
60歳になったからこそ、これまで培ってきた経験を、仕事以外の場所で、それを必要とする人に還元できるのです。
それを望んでいる人、待っている人は必ずいます。
一例ですが、
・地域の活動に参加する
・自治体やNPOなどの活動を手伝う
・若い人の相談相手になる
・これまでの仕事の経験を誰かに教える
・町内会や地域のイベントを手伝う
・図書館や公共施設などのボランティアに参加する
など、小さいことかもしれませんが、さまざまな方法があります。
それから、少しだけ考え方、視点を変えて、「社会に貢献すること」と「お金を稼ぐこと」を同じものとして考えないことをお勧めします。
上にあげた行動の例は、必ずしもお給料は発生しません。
しかし、だからといって価値がない行動ではありません。
周囲の人が喜んでくれること、感謝してくれることは大きな社会貢献の証です。
「60歳」は人生の終点ではなく、働き方を組み替える時期
これまでの日本では、
学校を卒業して、会社に入社し、定年まで働いたのちに引退する。
という人生モデルが一般的でした。
しかし、60歳を過ぎたからといって、突然「現役」と「引退」に分けられるわけではありません。
また、今は時代が変わって、「企業の終身雇用のあり方」、「労働者の働き方」自体も変わってきています。
「フルタイムで働く」から「少し働く」へ
「仕事中心の生活」から「仕事と生活を組み合わせる」へと、
働き方を組み替えていく時期なのではないでしょうか。
例えば、週3日は比較的負担の少ない仕事をする。残りの日は、自分の時間にする。
あるいは午前中だけ働いて、午後は趣味や勉強、人との交流に使う。
1ヶ月に必要な生活費のすべてを仕事で稼ぐのではなく、年金や貯蓄とのバランスを考えながら、必要な分だけ働く。
すでにお考えになっているかと思いますが、
「生活費のうち、いくらを働いて補えばいいのか」✖️「自身が得意なことを活かせる仕事などんな仕事か」
という視点で仕事探しをしてみてください。
ただし、「心」の問題だけでなく「お金」の問題にも向き合いましょう
「貯蓄を取り崩して生活する覚悟」と書かれていますが、ここについては精神論だけで解決しようとしないことが大切です。一度、文字にして書き出してみると、簡単に整理できることに気づいていただけると思います。
これから必要になるお金
・毎月の生活費はいくらか
・現在のアルバイト収入はいくらか
・年間でいくら貯蓄を取り崩すことになるか
・年金はいくら程度受け取れる見込みか
・年金受給開始まであと何年あるか
・医療費や住居費など、大きな支出が今後どの程度ありそうか
そして、
「あと何年、現在の資金で生活できるのか」
を数字で把握します。
漠然とした「収入がない」という不安は、非常に大きく感じられます。
一方で、
「毎月○万円あれば生活できる」
「アルバイトで○万円稼げば、貯蓄の取り崩しは年間○万円程度」
というところまで数字にすると、取るべき対策が見えてくることで、精神的にはずいぶん軽くなるはずです。
場合によっては、年金の受給開始時期や働き方について、年金事務所や専門家などに相談してみてもよいでしょう。
大切なのは、不安を頭の中だけで膨らませないことです。
数字として書き出して、現実を確認し、そこから対策を考える。
ご相談内容を拝見すると、相談者様は概ね必要な金額を把握されているように読めます。
その必要な金額のうち、いくらを貯蓄から切り崩し、いくらを稼ぐのか、一度整理していただくと、稼ぐ必要のある最低金額が把握できますので、仕事の選択の際に参考になります。
「役に立っているか」ではなく、「今日をどう過ごすか」
今の相談者にとって、最も苦しいのは「仕事が見つからないこと」だけではないように感じます。
「自分にはもう価値がないのではないか」という気持ちが、生活全体を覆ってしまっていることではないでしょうか。
だからこそ、いきなり「生きがいを見つけましょう」と言われても、難しいと思います。
まずは、「今日は誰かからありがとうと言われた」、「今日は誰かから頼られた/頼まれた」、「今日はエレベータに乗る際に他の人の荷物運びを手伝った」という、小さなものから始めていいのです。
生きがいというものは、最初から大きな目標として見つかるとは限りません。
小さな経験が積み重なって、後から「これが自分の生活の楽しみだった、生きがいだった」と気づくこともあります。
そして、眠れないほどの不安を一人で抱えないでください
最後に、少し気になることがあります。
相談者様は「経済面での不安で眠れない日々が続いている」と書かれています。
将来のお金について不安になるのは当然です。
しかし、眠れない状態が続くほど不安が強くなっているのであれば、これを「気持ちの持ち方の問題」と軽く考えないでください。
睡眠不足が続くと、物事を悲観的に考えやすくなり、さらに不安が強くなることがあります。
家族や友人など、話せる人がいれば、今の気持ちを話してみてください。
また、眠れない状態が続いたり、気持ちの落ち込みが強かったりする場合には、医療機関や公的な相談窓口などに相談することも選択肢です。
「こんなことで相談していいのだろうか」と考える必要はありません。
つらいときに助けを求めることも、自分を守るための大切な行動です。
60歳からの人生に「定年」はありません
会社を辞めたが、フリーランスでは思うように稼げなかった。今はコンビニで働いている。
この事実から、「社会に必要とされていない」という結論を導く必要はありません。
むしろ私は、60歳になった今だからこそ、これまでの人生を少し組み替える時期なのだと思います。これまでのように会社に自分を合わせるのではなく、
「自分に合う働き方は何か」
「いくら稼げば生活を維持できるのか」
「仕事以外に何を大切にしたいのか」
を、一つずつ考えていく。それでいいのではないでしょうか。
私の先輩の例です。
その先輩は60歳で定年を迎え、「自身に貴重な経験を与えてくれた社会にお返しがしたい」との想いで、退職後、自営の会社を設立し、ご自身の事業を始められました。
しかし、とても優秀な営業職だったその方も、独立後の営業活動では苦戦を強いられる期間が1年以上継続していました。
少し前に、1年半ぶりでお会いした先輩は、ご自身が入居しているマンションの組合の役員になられて、精力的に活動されていて、キラキラしていました。そしてその活動の中で得た新しい出会いから地域に根ざした仕事が生まれたとのことで、ご自身の会社も忙しくされてる様子でした。
「社会への恩返し」は、必ずしも大きなことをする必要はありません。
誰かの相談に乗ることも、地域の活動に参加することも、誰かに親切にすることも社会とのつながりです。
60歳は「もう必要とされない年齢」ではありません。
あたらしい世界に移り住んだ。そんな気持ちで、自分に合った「第二の働き方」と「第二の居場所」を探していけばいいのです。
