今回のお悩み
56歳の女性です。89歳の父が介護施設に入居することになりました。
父は認知症ではなく、話す力は衰えているものの、現在も自分の意思を伝えることができます。
入居する施設では、トラブル防止のため、現金やクレジットカード、預金通帳、キャッシュカードなど、お金に関するものを入居者本人が持ち込むことは禁止されています。
父の施設入居に伴う費用やその他の支払いについては、父が指定した銀行口座から支払えるよう、私が管理しています。
一方、介護サービスの手配や保険証の受け取りなど、市役所との細かなやり取りは弟が担当してくれています。父の介護認定から施設入居までの2~3か月、弟にはさまざまな手配をしてもらい、とても助けてもらいました。
ある日、銀行で父の通帳を記帳したところ、2つある口座のうち1つが残高不足になっていました。
これまでのクレジットカードの利用額や引き落とし額とは明らかに違う、数十万円単位の引き落としが5~6回もあり、口座の残高がほとんどなくなっていたのです。
不審に思い、クレジットカード会社に問い合わせました。
しかし、利用明細については、カードの名義人である父本人にしか開示できず、父の同意がなければ私にも開示できないとのことで、教えてもらえませんでした。
そこで弟に、それとなく「お父さんのクレジットカード、使った?」と聞いてみました。すると弟は、父が倒れて入院した際に「飲み物を買いたいのでお小遣いを持たせてほしい」と言われたので、20万円をキャッシングしたと話しました。父が「飲み物を買いたいから、現金を少し持っておきたい」と言ったこと自体は事実のようです。
ただ、弟によれば、結局その20万円を父本人には渡していないとのことでした。
そもそも、飲み物代として20万円という金額は到底釣り合いません。
弟は、親のクレジットカードを親本人のために使うのであれば、家族が使っても問題ないと思っているのかもしれません。
ただ、父のクレジットカードを、父本人の明確な同意を確認することなく弟が持ち出していたこと、そして数十万円のお金が父の口座から引き出されていたことについて、私はどう考えるべきなのか分からなくなっています。
もちろん、弟には感謝しています。
父の介護認定から施設探し、入居までの間、私と市役所との間をつないでくれたのは弟です。
そのため、「これまでいろいろやってくれたのだから、その分の手数料だと思って目をつぶってもいいのではないか」と考えてしまう自分もいます。
現在は、クレジットカードを紛失したものとして利用停止の手続きをしました。
そのため、今後このカードから新たにお金が引き出されることはないはずです。
また、施設関連の費用については、別の口座に十分な残高があるため、当面の支払いに困ることもありません。
そこで相談です。
今回の数十万円について、私は弟に対して、「親のクレジットカードを勝手に使ってはいけない」と伝えたほうがいいのでしょうか。
それとも、今後カードは使えない状態になっているので、これまでのことは問題にせず、私の中で収めたほうがいいのでしょうか。
もう一つ気になっているのは、父本人への説明です。
現在、父には「2つある口座のうち1つがほとんど空になっている」ということをまだ伝えていません。
父は認知症ではなく、自分の財産状況についてもある程度理解しています。
施設に入居したばかりの父に、今あえて「お父さんの口座から数十万円が引き出されている」と伝えると、不安にさせてしまうのではないかとも思います。
一方で、本人のお金なのだから、本人に知らせないままにしておくことにも抵抗があります。
弟との関係、父の気持ち、そして父のお金を守ること。
この3つをどう考えればよいでしょうか。
回答
今回のケースで一番大切なのは、「弟さんを責めるか、責めないか」ではなく、お父さまのお金について、家族の中で曖昧になっていたルールをここで整理することだと思います。
アドバイスとしては弟さんには一度、きちんと話したほうがいい。そして、お父さまにも、可能な範囲で事実を伝えたほうがいい。と考えます。
ただし、いきなり「勝手にお金を盗ったでしょう」と追及すると拗れる可能性がありますので注意が必要です。
「これまで世話になったから」で済ませないほうがいい
相談者の方が迷っている最大の理由は、弟さんがこれまでお父さまのためにかなり動いてくれたことなのでしょう。
介護認定の手続き、市役所とのやり取り、施設入居に向けたさまざまな手配。
それだけのことをしてくれた弟さんに対して、「数十万円使ったことを問題にするのは申し訳ない」という気持ちになるのは自然なことです。
しかし、ここは分けて考えたほうがいいと思います。
「弟さんがお父さまのためにしてくれたことへの感謝」と「お父さまのお金をどのように使ったのか」は別の問題です。
もし弟さんの負担が大きかったのであれば、後から家族で話し合って、交通費や実費、必要であれば一定の謝礼をお父さまのお金から出すという方法もあります。
しかし、それは「お父さまの了解を得て、金額と目的を決めて支払う」という形にしたほうがよいでしょう。
今回のように、「父からお小遣いが欲しいと言われたから20万円をキャッシングした」
という説明だけでは、何に使ったのか、お父さま本人が本当に20万円を承知していたのかが分かりません。
まして、実際にはお父さま本人がその20万円を受け取っていないというのであれば、なおさら曖昧なままにしておくべきではありません。
親のクレジットカードは「たとえ家族でも」使ってよいものではない
ここについては、弟さんにきちんと理解してもらう必要があります。
クレジットカードは、基本的に名義人本人が利用することを前提としたものです。
家族だからといって、親のカードを自由に使ってよいというものではありません。
実際、消費者庁もクレジットカードの不正利用について、身に覚えのない請求があった場合には明細を確認し、速やかにカード会社へ連絡するよう注意喚起しています。
今回の件については、「今回のことを責めたいわけではない。でも、今後はお父さんのお金を家族が使う場合のルールを決めよう」と伝えるがよいでしょう。
例えば、「お父さんのためにいろいろやってくれて本当に感謝している。ただ、今回、カードからかなり大きな金額が出ていたので、今後は父のお金を使う場合は、必ず私にも分かるようにしてほしい。カードを家族が使うのも極力やめておこう」くらいの伝え方で十分でしょう。
「20万円は何に使ったのか」という点についても、責める口調ではなく、事実確認として聞いておくことです。
「手数料だった」と考えるなら、なおさら記録を残す
仮に弟さんが、「これまで父のために動いた交通費や手間賃のようなものだ」と考えていたのであれば、それも家族で話し合えばよいことです。
「これまでの実費として○万円だった」
「父の財産管理や手続きをしてもらう対価として○万円を支払う」
など、お父さま本人が納得できる形にすることができます。明細と領収書をまとめるとよいですね。
気をつけたいのは、使途が分からないお金を、そのまま『弟への手数料だったことにしよう』と処理しないことです。
今回の数十万円についても、通帳の記録やカードの利用日・金額などを、できるだけ記録として残しておくとよいでしょう。
これは弟さんを疑うためではありません。
今後、親のお金を家族で管理していくための「家計簿」のようなものです。
お父さまには伝えるべきか
こちらは、弟さんへの対応以上に慎重に考えたい部分です。
お父さまは91歳で介護施設に入居されているとのことですが、認知症ではなく、ご自身のお金について理解できる状態とのこと。
そうであれば、原則として、お父さま自身のお金について、お父さまを蚊帳の外にしないことが大切です。
成年後見制度等、本人の判断能力が十分でない場合に財産管理を支援する仕組みが設けられていますが、今回の相談者のお父さまは認知症ではなく、本人の意思を確認できる状況です。
ですから、「お父さんには心配をかけたくないから、何も言わない」という理由だけで、本人の財産について家族だけで処理してしまうのは、あまりおすすめできません。まずは事実関係を整理したうえで、必要以上に刺激しない形でお父様に確認するのがよいでしょう。
伝え方の一例です。
「お父さんの口座を確認したら、カードからまとまった金額の引き落としがありました。今後のお金の管理をきちんとしたいから、一緒に確認しておきたい。お父さん、使った覚えはある?」
そして、「弟が20万円を使ってしまった」と最初から断定するのではなく、「この引き落としについて、お父さんは何か覚えている?」と本人の認識を確認してみる。
もしお父さまが、「弟さんに20万円を渡した」とか「弟さんに使っていいと言った」と明確に説明できるのであれば、話は変わってきます。
逆に、「そんなことは頼んでいない」、「20万円なんて知らない」ということであれば、今回の件はさらに慎重に扱う必要があります。
いずれにしても、まずご本人の確認をすることです。
今回の問題は「20万円」だけではない
今回、幸いにも施設費用を支払うための別口座には十分な残高があり、カードも利用停止にしたとのことですので、
現時点ではこれ以上のカード利用が発生する状況ではありません。
しかし、これからもお父さまの財産管理は続きます。
91歳のお父さまが施設に入居すれば、今後も施設費用がかかります。
そこで、「誰が何を管理するのか」を今の段階で決めておくことが重要です。
例えば、
「銀行口座は姉が管理する」→ここは今のところ相談者さま
「市役所や介護関係の手続きは弟が担当する」→ここは今のところ弟さん
「父のお金を使うときは、金額と目的を記録する」
「父のための買い物をした場合は領収書を残す」
「家族が父のために立て替えた場合は必ず記録する」
といった確認をしておくだけで、皆さんの意識が変わる可能性があります。
「姉が管理、弟が手続き」という役割分担を明確にする
今回のケースでは、相談者の方と弟さんで、すでに役割分担ができています。
これはむしろ良いことです。
相談者の方が銀行口座や支払いを担当し、弟さんが行政や介護関連の手続きを担当する。
この役割を明確にしておけば、「お金のことは姉に確認する」というルールにすることができます。
弟さんが何か買う必要があれば、「これを買うので○円必要」と相談者さまに伝える。
相談者さまはお父様本人の希望を確認したうえでお金を出す。
そうすれば、弟さんもいちいち疑われているような気持ちにならずに済みます。
「家族だから信用する」と「家族だから確認する」は両立する
「家族なのだから、いちいちお金のことで疑うのは嫌だ」という気持ちが出てくるかもしれませんが、
家族だからこそ、お金については確認できる仕組みにしておくことで、皆が気持ちよく過ごせるようになります。
兄弟間の関係を守ることにもつながります。
何も記録がなく、後になって、
「このお金は何だった?」
「そんなもの使っていない」
「いや、父のために使った」
という話になると、兄弟の関係そのものが壊れてしまう可能性があります。
透明にしておけば、「これは父のために使ったお金」と説明できます。
「弟さんを問い詰める」のではなく「ルールを作る」
相談者の方が弟さんに伝えるべきなのは、
「今回のことをきっかけに、これからは父のお金について家族でルールを決めたい」という内容となります。
その中で、
「カードを本人の同意なく使うのはやめよう」
「父のお金を使った場合は、金額と用途を記録しよう」
「父から小遣いを頼まれたら、姉にも知らせよう」
という具体的なルールを決める。
もし弟さんが「自分は悪いことをしたつもりはなかった」と言うのであれば、そこで初めて、
「だからこそ、今後は家族の中でルールを決めよう」と伝えればよいのです。
お父さまに伝えることも「告発」ではない
そして、お父さまへの説明も、
「お父さんのお金について、今後きちんと管理するために、一度一緒に確認しておこう」
という話にすればよいでしょう。
もしお父さまが「そのお金は弟に渡した」と理解しているのであれば、その意思を尊重する必要があります。
一方、「そんなお金は知らない」と言うのであれば、弟さんにも改めて説明を求める必要があります。
「黙っておく」のではなく、「家族のお金のルールを作る」
弟さんを責め立て、これまでお父さまのためにしてくれたことまで否定しないように。
「今まで本当にありがとう。だからこそ、これからも兄弟で協力して父を支えていきたい。そのために、お金のことだけはお互いに分かるようにしておこう」というスタンスが、一番現実的ではないでしょうか。そして、お父さまについても、判断できる状態であるなら、できる限り本人の意思を確認する。
親のお金を守りつつ、兄弟の関係を守る。
今回の数十万円については、以下を確認しましょう。
①何月何日に、いくら引き出した(キャッシングした)のか
②何に使ったのか
③お父さま本人は承知していたのか
④今後、誰がお父さまのお金を管理するのか
賢明な相談者様においてはすでにご対応済みの部分もあるかもしれませんが、相談者様のお悩み解決に少しでも役立つことができましたら嬉しく思います。

