【心の相談室】地方移住を考えています。50代から新しい土地で暮らすことに挑戦するか?

心の相談室

今回のお悩み

54歳の女性です。
私は横浜で生まれ育ち、これまでずっと都会で暮らしてきました。
50代に入ってから、バックパックを背負って長野の山間部や四国、九州の島などを旅するようになりました。
自然の中を歩いたり、都会とは違うゆったりとした時間を過ごしたりするうちに、「もしかしたら、自分には自然の多い環境のほうが向いているのではないか」と思うようになりました。

私はずっと独身だったため、決して大きな金額ではありませんが、多少の貯蓄もあります
そこで、早期退職をして地方へ移住し、60代からの人生を新しい環境で楽しむのもいいのではないかと考えるようになりました。
地方によっては「お試し移住」や「体験移住」の制度もあるようなので、一度参加してみようかとも考えています。

ただ、移住者と受け入れ地域との間でトラブルになるケースもあると聞きます。
旅行で訪れるのと、そこに住み続けるのとでは、まったく違うことも理解しています。

その地域ならではの考え方や人間関係に、自分は馴染めるのだろうか。
都会の生活で当たり前だった買い物や病院などの利便性を手放して、地方での生活を続けられるのだろうか。
といった不安がよぎります。

また、私はこれまで花や野菜を育てた経験もほとんどありません。
「地方に移住したら、家庭菜園や農作業で充実した毎日」というイメージもありますが、こんな私でも地方暮らしを楽しめるのだろうかと思ってしまいます。

一方で、都会ではあまり感じることのない「人が気にかけてくれる」という地方ならではの環境には、とても魅力を感じています。

私は一人暮らしで、どちらかというと寂しがり屋です。

近所の人から「最近どう?」と声をかけてもらったり、困ったときに気にかけてもらったりするような人間関係は、私にとって大きな魅力です。

女性一人での移住について、防犯面や生活していけるのかという不安もあります。

「一度、体験移住をしてみればいい」と思う一方で、「本当に大丈夫なのだろうか」という心の中の迷いもあり、なかなか決断できないまま年月が過ぎています。

50代から地方に移住して、新しい人生を始めることについて、何かアドバイスをいただけないでしょうか。


回答

「移住するか、しないか」を今すぐ決めなくてもいい

今回のご相談を読んで、まずお伝えしたいのは、今すぐ「移住する」と決断する必要はないということです。
むしろ、54歳という年齢だからこそ、時間をかけて慎重に試してみることをおすすめします。

地方移住というと、「会社を辞めて、家を探して、引っ越す」という大きな決断をイメージしてしまいます。
しかし、その前に、
「自分は地方で暮らしたいのか」ではなく、「自分はどんな暮らしをしたいのか」
を考えてみる必要がないでしょうか。

相談者様の文章からは、単純に「田舎に住みたい」というよりも、

  • 自然の近くで暮らしたい
  • 旅で感じたような自由な時間を持ちたい
  • 60代以降の人生を自分らしく楽しみたい
  • 一人暮らしでも、人とのつながりを感じていたい

という思いが伝わってきます。
この「暮らしの目的」をもう少し明確にしておくことが、移住先を選ぶうえで非常に重要です。

「旅行で好き」と「住みたい」は別物

相談者様自身も書かれているように、旅行と定住では大きな違いがあります。
旅行なら、多少不便でも「これも旅の楽しみ」と思えます。
山間部の小さな宿に泊まって、朝起きて鳥の声を聞き、コンビニがなくても「都会とは違っていいな」と感じることもあるでしょう。

しかし、そこに5年、10年と暮らすとなれば話は変わります。

たとえば、

「病院まで車で30分」
「スーパーまで車で20分」
「雪が降ったら雪かき」
「公共交通機関が1時間に1本しかない」

という環境を、毎日の生活として受け入れられるかどうか。

さらに、60代、70代と年齢を重ねれば、今は気にならない不便が大きな負担になる可能性もあります。

だからこそ、移住先を選ぶときには「景色が好き」「自然がきれい」だけではなく、10年後、20年後にも暮らせる場所かという視点を持っていただきたいと思います。

おすすめしたいのは「お試し移住」です

そこで、相談者が検討されている「体験移住」は、とても良い方法だと思います。
できれば1回だけではなく、条件を変えて何度か滞在してみることをおすすめします。
例えば最初は、夏の気候が良い時期に訪れてみる。
次は冬に訪れてみる。
そして、観光客が多い休日ではなく、普通の平日に滞在してみる。

できれば数日ではなく、1週間、さらに可能なら数週間程度、「観光客」ではなく「生活者」に近い感覚で過ごしてみるのです。

その際には、次のようなことを実際に確認してみてください。

  • 朝起きてから夜まで、どのように過ごすのか
  • スーパーやドラッグストアまでの距離
  • 病院や歯科医院へのアクセス
  • 公共交通機関の本数
  • タクシーなどの移動手段
  • 冬の寒さや雪の状況
  • インターネット環境
  • 近所にどの程度人が住んでいるか
  • 地域のコミュニティに参加しなくても生活できるか
  • 防犯上、不安を感じる場所ではないか

そして何より、「一日誰とも話さなかったら、自分はどう感じるか」を体験してみてください。
これは、一人暮らしの地方移住では意外と重要なポイントです。

「地域に馴染まなければならない」と考えすぎない

地方移住について調べていると、「地域の行事に参加する」「自治会に入る」「地域の人と積極的に交流する」といった話を目にすることがあります。

もちろん、地域とのつながりは大切です。

しかし、だからといって、最初から地域の人たちの輪の中に入っていかなければならないわけではありません。
むしろ、最初から「地域の皆さんと仲良くしなければ」と頑張りすぎると、かえって疲れてしまうことがあります。

地方には地方の、人間関係の距離感があります。

「人とのつながりが濃い」ということは、裏を返せば「人間関係が近い」ということでもあります。

相談者が魅力に感じている「気にかけてもらえる」という環境も、人によっては安心感になりますが、人によっては「干渉されている」と感じることもあります。

だからこそ、移住先を選ぶときには、

「どれくらい地域と関わることを求められるのか」

を実際に確認してみることが大切です。
自治会や地域活動への参加についても、体験移住の際に率直に聞いてみてください。

「農業ができない」は心配しなくていい

もう一つ、相談者様の相談内容にある、「花も野菜も育てたことがない」という点です。
これは、あまり心配しなくてもいいと思います。
地方で暮らすことと、農業をすることは同じではありません。

自然の中を散歩する。
庭で小さな花を育てる。
近所の直売所で野菜を買う。
図書館で本を読む。
カフェで地産の野菜を楽しむ。
写真を撮る
近隣の町へ出かける。
温泉に行く。
地域のイベントに参加する。

こうした生活も立派な地方暮らしです。

むしろ、相談者様の場合は「農業をするために地方へ行く」のではなく、自然の近くで、自分の時間を楽しむために地方へ行くと考えたほうがよいでしょう。
家庭菜園をやってみたくなったら、そのときに始めればいいのです。

最初から「田舎暮らしとはこういうもの」という型にはめる必要はありません。

単身女性だからこそ「住む場所」は慎重に

一方で、相談者が心配されている防犯面や生活面については、慎重に考えていきたい点となります。
特に単身女性の場合、「自然が豊かで静かな場所」という条件だけで住居を決めるのはおすすめしません。

たとえば、
「夜になると周辺にほとんど人がいない」
「街灯が少ない」
「車がなければ移動できない」
「近所に買い物できる場所がない」
といった環境は、若いうちは問題なくても、年齢を重ねると負担になる可能性があります。

また、病気やけがをしたときに一人で対応できるのかも考えておきたいところです。

その意味では、完全な山間部よりも、

「自然は豊かだけれど、少し車を走らせればスーパーや病院、公共交通機関がある」

くらいの場所のほうが、単身でのセカンドライフには向いているかもしれません。

「田舎か都会か」の二択ではなく、地方都市の郊外や、比較的交通の便が良い地方の町も候補に入れてみてはいかがでしょうか。

「完全移住」ではなく「二拠点的な暮らし」から始めてもいい

そして、もう一つ考えてほしいのが、いきなり横浜を離れない方法です。
たとえば早期退職後、最初の1〜2年は、
「横浜の住まいを維持しながら、地方に長期滞在する」
という方法もあります。

1か月だけ住んでみる。
季節を変えて住んでみる。
スキーシーズンだけ住んでみる。
地元のスーパーで買い物をしてみる。
病院に行ってみる。
地域の人と話してみる。

そうやって「旅行」から「生活」に少しずつ近づけていくのです。
実際に暮らしてみて、「やっぱりここが好き」と思えれば、その時点で本格的な移住を考えればいい。
反対に、「やっぱり都会の便利さが必要だった」と気づいたとしても、それは失敗ではありません。

移住しないという選択肢を確認できたことも、十分に価値のある体験です。

50代からの移住は「人生をリセットすること」ではない

50代で地方へ移住すると聞くと、「これまでの人生を捨てて、新しい人生を始める」というイメージを持つ人もいるかもしれません。
でも、そんなに大きく考えなくてもいいのではないでしょうか。

これまで横浜で暮らしてきた54年間も、これからの人生の一部です。
地方に移住したからといって、都会との縁をすべて切る必要はありません。
旅が好きなら、ときどき横浜や東京に遊びに来てもいい。
地方で暮らしながら、都会とのつながりを残しておいてもいいのです。

50代以降は、「一度決めたら後戻りできない」という考え方から少し自由になっていいのではないでしょうか。

「寂しがり屋だから地方に行きたい」という気持ちも大切に

相談者様が書かれている、

「人が気にかけてくれる地方の環境が魅力」

という気持ちは、とても大切だと思います。
ただし、ここにも一つ注意点があります。

「地方に行けば自然に人とのつながりができる」とは限らないからです。

地方にも一人暮らしの人はいますし、地域によって人間関係の濃さも大きく違います。
だからこそ、移住先を決めるときには、家そのものだけでなく「そこでどんな人間関係をつくれそうか」を見てみてください。
地域のサークル、ボランティア、趣味の会、図書館、スポーツ施設、カフェなど、一人でも参加できる場所があるか。

相談者様の場合、これまでバックパックで各地を旅してきたという経験があります。
これは大きな強みです。
「地方に移住したら、何をすればいいかわからない」という人ではなく、自分から知らない場所へ出かけていける人だからです。
その行動力を生かせば、地域とのつながりも少しずつつくっていけるのではないでしょうか。

迷っているなら、「移住するか」ではなく「一度住んでみる」

最後に、相談者様へのアドバイスを一つに絞るなら、

「移住するかどうかを決める前に、一度住んでみる」です。

そして、そのときに「ここに住めるか」だけではなく、

「ここで朝起きたとき、私は幸せだろうか」
「一人で過ごす時間を楽しめるだろうか」
「困ったときに頼れる人や場所があるだろうか」
「10年後もここで暮らしたいと思えるだろうか」

と、自分に問いかけてみてください。

54歳なら、まだ60代の生活を決め切る必要はありません。
むしろ、今から5〜6年かけて、いくつかの土地に実際に滞在しながら「自分に合う暮らし」を探していくのも、素敵な時間の使い方だと思います。

「移住する」という大きな決断をするのではなく、
「ちょっと長く住んでみる」
くらいの軽やかな気持ちから始めてみてはいかがでしょうか。

そして、実際に住んでみて「やっぱり横浜が好きだった」と思ったとしても、それは決して失敗ではありません。

これからの人生で大切なのは、「どこに住むか」以上に、「どんな毎日を送りたいか」です。

相談者様の場合、その答えを探す旅そのものが、60代からの人生を考える大切な準備になるのではないでしょうか。

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